映画批評「ココ・シャネル」
2009.8.9 映画批評

公開中の「
監督:クリスチャン・デュゲイ 脚本:エンリコ・メディオーリ 音楽:アンドレア・グエラ 出演:シャーリー・マクレーン、バルボラ・ボブローヴァ、マルコム・マクダウェルほか 上映時間:138分 配給:2008伊・仏・米/ピックス
舞台は1954年のフランス。15年の沈黙を破って、ガブリエル“ココ”シャネル(シャーリー・マクレーン)は復帰コレクションを開催するも、評論家たちから酷評されてしまう。彼女は改めて、孤児だった自分がファッション界のトップに上り詰めるまでのキャリアを振り返る。そこには、愛と創造の挟間で生き抜いてきた自分自身の姿があった……。
世界有数のブランドのひとつ「シャネル」を立ち上げたガブリエル“ココ”シャネル。彼女の半生を描いた物語だ。名女優シャーリー・マクレーンが演じるキャリア獲得後のココが、若かりしころを振り返る(若きココを演じるのはバルボラ・ボブローヴァ)。過去と現在(1954当時)を行きつ戻りつするなかで、ココの起伏に富んだ半生が静かに浮かび上がっていく。
まだ女性の社会的地位が低かった時代に、彼女はファッションに対して独自の視点をもち、なおかつその視点を疑わず、創造力と行動力をもって未開の世界に突き進んだ。その姿はまるで革命家のようだ。彼女にとってファッションはサーベルのようなもの。そのサーベルは、ときに自分を護り、ときに社会に切り込む際にふるわれる。
物語のなかで、彼女はいくつもの名案を思いつき、それを形にしていく。前衛的なセンスと奇抜なアイデアは、ときに誹謗中傷の対象になるが、どれだけ叩かれても、彼女が自分の感性に失望することはない。踏まれても踏まれても起き上がる雑草のようなココに、勇気をもらう観客(とくに女性)も少なくないはずだ。彼女の生き方は、自分を信じることと、決して諦めないことの尊さを教えてくれる。
この映画は、そんな彼女の半生を年表のような無機質さでつづるでも、ドラマチックに美談化したものでもない。演出的に抑制を利かせながら、ココというひとりの女性の魅力と人間的な本質に真摯に迫ろうとした作品だ。恋愛のエピソードにけっこうな時間が割かれているのは、おそらくそのため。いくつかの恋を通じて、孤児だったことに起因する心の翳(かげ)や、彼女生来のまっすぐな性格があぶり出される。ココの強靭な自我と旺盛な自立心は、「創造」という分野で遺憾なく発揮される一方、「愛」という分野では理想と現実の乖離を生む。社会的成功と悲恋。そのコントラストが人生の深さを示す。
(シャネラーはもちろん)シャネルに興味のある人であれば、ココが男物の服を着て街を歩く、“シャネルスーツ”のルーツとも言えるシーンや、香水「シャネルNo.5」の開発にまつわるシーンなど、さり気なく挟まれるエポックメイクなエピソードも楽しめるだろう。
高飛車で毅然とした晩年のココを演じたシャリー・マクレーンは言うまでもなく、回顧シーンでココを演じたバルボラ・ボブローヴァの演技も素晴らしい。自分に正直で、ちょっぴり孤独で甘えベタ。愛しても愛されても、どこか愛に溺れ切れない彼女の本質を見事に表現している。ココを支えるビジネスパートナー役を演じた名優マルコム・マクダウェルも、限られたシーンのなかで存在感を示している。
シャネル創業100周年にあたる2009年は、シャネル映画のラッシュ年だ。9月にはオドレイ・トトゥ主演の「ココ・アヴァン・シャネル」、2010年にはアナ・ムグラリス主演の「ココ・シャネル&イーゴル・ストラヴィンスキー」の公開も予定されている。本作「ココ・シャネル」を含め、切り口やアプローチの異なる3本を見比べてみるのもいいだろう。
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