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No.55「第三の男」

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 銀幕をさまよう名言集!  No.55  2009.12.7発行 

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1949年/イギリス 「第三の男」より


フィルム・ノワールの名作。


舞台は第二次世界大戦直後のウィーン。
アメリカの売れない小説家ホリー・マーティンスは、
親友ハリー・ライムから仕事を依頼され、
ウィーンへやって来た。


ライムの家を訪ねると、
マーティンスは、
ライムが交通事故死したことを知らされる。


マーティンスが、
事故の目撃者に話を聞くと、
現場に謎の<第三の男>が居たことをつきとめる。
果たしてこの第三の男は誰なのか……?


多くの人が知っている物語なので、
ネタバレを書くと、
ライムは死んでおらず、
生き延びていた。
彼は罪のない子供たちを死に至らしめるような悪事を
平気な顔をして働く凶悪犯だったのだ。


そんなライムを
マーティンスはいよいよ見つけ出す。
だがライムは悪びれることもなく、
自己を正統化し、
マーティンスを仲間に誘おうとさえする。
そして、最後にはこんなセリフを吐くのだった――


     「そんなに落ち込んだ顔するなよ。
      とにかくたいしたことじゃない。
      こんなことを言ったヤツがいたよ――


☆★☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


      ボルジア家の圧政時代には、
      陰謀やテロが横行した。
      だが、そのなかで多くの芸術家が誕生した。
      スイスは愛の国だが、
      500年間の民主主義と平和は何を生んだんだ?
      ――鳩時計が精一杯だ」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ☆★☆


かつてイタリアのボルジア家の悪政下では、
多くの人の血が流れたが、
一方で、ミケランジェロやレオナルド・ダ・ヴィンチ
などの芸術家を輩出した。
対して、平和なスイスで生まれたのは、
鳩時計くらい……。


圧制がルネサンス(=自由)を生み、
平和なスイスは鳩時計(=取るに足らないもの)を生んだ。
そんな皮肉を言いたいのだろう。


     「ボルジア家の圧政時代には、
      陰謀やテロが横行した。
      だが、そのなかで多くの芸術家が誕生した。
      スイスは愛の国だが、
      500年間の民主主義と平和は何を生んだんだ?
      ――鳩時計が精一杯だ」


たしかに、咀嚼しがいのあるセリフである。
人間の計り知れない可能性やパワーは、
ときに「悪」の反動として、
あるいは「悪」そのものの力を借りながら、
生まれることもある。
イタリア・ルネサンスなどはその好例だろう。


ただし、
いくら含蓄のある言葉でも、
ライムほどの凶悪犯が口にすると、
それは詭弁以外の何ものでもなくなる。
彼は悪事を働く自分を正当化するために、
都合よく言葉を使っているにすぎない。


説得力のある言葉と、
その言葉がどのような目的で使われているか、
そのふたつは分けて考える必要がある。


まっとうな目的で使われた言葉を「名言」といい、
自己正当化などの目的で使われた言葉を「きれいごと」という。
言葉はできれば、
「きれいごと」ではなく、
「名言」として使いたいものだ。


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●編集後記             
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

キャロル・リード監督の「第三の男」は
陰影を巧みに使った映像や、
ミステリアスなプロットが高く評価されている名作です。
ライム役には、
「市民ケーン」のオーソン・ウェルズが起用され、
怪演を見せています。


長回しで撮影された並木道のラストシーンは、
映画史に残る名場面といえるでしょう。
こちらに向かってまっすぐ歩くアンナの姿が、
少しずつ大きくなってきます。
手前で待ち受けるマーティンスは淡い期待を寄せますが、
アンナは見向きもせずにマーティンスの横を
通りすぎてしまいます……。


流れるチターの音色と相まって、
なんとも言えない寂寥感が、
心に広がります。


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■銀幕をさまよう名言集! No.55「第三の男」


マガジンID:0000255028
発行者  :山口拓朗


●公式サイト「フリーライター・山口拓朗の音吐朗々NOTE」
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