ホームラン競争の勝者はどっち?
2002.11.15
嫌なものを見ちまったな——。日米野球の第5戦の試合前に行われたボンズと松井のホームラン競争で、ボンズが最終打席に見せた「右打ち」のことである。
バリー・ボンズ——昨季、メジャーで年間73本という年間最多本塁打の新記録を作ったジャイアンツの強力4番打者は、ハンク・アーロンが76年に打ち立てた通算本塁打「755本」を超える可能性が最も高いと目されている左打者だ。今回の日米野球での注目度もNo.1。ワールドシリーズを戦った勢いのまま日本に乗り込んできた。
さて、ホームラン競争は10打席を2回ずつ繰り返し、合計20打席で決着をつけるルールで行われた。ボンズの飛距離は圧巻であった。スタンドの上段に次々と白球が突き刺さっていく。日本人には到底真似のできないパワーと卓越した技術力を目の当たりにして、日本の野球ファンは大いに興奮した。
前半の10打席を終え、ボンズのホームランは4本、松井はわずかに1本。後半の10打席もボンズは特大アーチを連発し、計19本を打ち終えた時点でホームラン数は8本。戦局はほぼ決まりつつあった。
ところが、だ。
投手が20打席目となる最後の1球を投げた瞬間、ボンズはサッと打席を替え……「右打ち」を演じたのである。ボールはバットの根っこにあたり、鈍い音を立てて失速した。あたり前だ、ふざけて打っているのだから。その時の嘆息が冒頭の一文である。
松井および日本球界がバカにされたと気づくまでに10秒とかからなかった。しかし、それ以上に大きな問題は、ファンが楽しみにしていた夢の真剣勝負に水を差したことであった。
テレビでは解説陣が笑い、実況アナが「ああ、これはパフォーマンズですね」みたいなことをヌケヌケと言っている。何がパフォーマンスだ。日本のファンがボンズに望んでいた最高のパフォーマンスは、彼のフルスイングによる特大ホームランではなかったのか。ボンズはそれを見事に拒絶したのである。しかも「浮かれる」という最悪のカタチで。
観客は温かい拍手を送っていたが、あの場面で必要だったのは、ブーイングではなかったか。本人はご愛嬌のつもりだったのかもしれないが、あれをメジャー一流のパフォーマンスとは思いたくはない。第一、あと10打席を残している松井に対する仁義を欠いていること自体、スポーツマンシップに反している。
一方の松井はといえば、そんな稚拙なパフォーマンスのなど意に介す様子もなく、徐々に立ち直りを見せ、最後の20打席目を見事なアーチで締めくくった。私はその一発を見た瞬間に「松井はこの勝負に勝った!」と思った。
本来であれば、松井こそサジを投げても良かった場面で、彼はプロらしく自己の責務をまっとうした。思えば彼は高校時代、甲子園で5打席連続敬遠にあいながらも平然を貫いた男である。ましてや、ハナから見せ物になる覚悟で挑んだ今回のホームラン競争で、沈着冷静かつタフに戦い抜いた姿勢は、大いに評価されて然るべきである。
それに比べて、メジャー屈指のスラッガーは、何ゆえ1打席を無駄にしてしまったのか。その不可解極まりない理由とともに、「真の一流」について、改めて考えさせられた一夜だった。
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