感動フリーライター・山口拓朗 映画批評

感動フリーライター・山口拓朗 映画批評 > その他 > ■舞台 > 「ミス・サイゴン」

「ミス・サイゴン」

2008.10.3

miss_saigon.jpg

帝国劇場にてロングラン公演中のミュージカル「ミス・サイゴン」を観劇。


作:アラン・ブーブリル&クロード・ミッシェル=シェーンベルク オリジナルプロデューサー:キャメロン・マッキントッシュ 出演(観劇日):橋本さとし、知念里奈、照井裕隆、岡幸二郎、シルビア・グラブ、石井一彰、池谷祐子ほか 製作:東宝 


舞台はベトナム戦争のまっただなか、陥落寸前のサイゴン(現ホーチミン市)。エンジニアが経営するキャバレーでは、連日死闘をくり広げている兵士たちが、一夜の快楽を求めて「ミス・サイゴン」を選ぶパーティに興じている。その会場で、米兵クリスと、田舎から出てきたばかりの17歳のベトナム人少女キムは出会うが……。


93年に日本で初演、04年には2度目のロングランが行われた名作「ミス・サイゴン」。日本公演は今回で3度目となる。


ベトナム人少女とアメリカ兵。戦争で心に傷を負ったふたりがまず重ねたのは、カラダではなく言葉であった。心の虚しさを埋め合わすかのように、安らぎを分かち合うふたりは、急速に惹かれあっていく。戦争が結びつけた純愛である。


ただし、ふたりの仲を切り裂くのも、やはり戦争だ。キムのおなかに新たな命が芽生えたことも知らず、クリスはアメリカ帰国後にほかの女性と結婚。一方、ベトナムに残されたキムは、健気なほど一途にクリスを思う。とりわけ、キムが息子に向けるまなざしのあたたかさは、クリスに対する深い愛の証左だ。息子に重ねるクリスの面影。待つ立場ゆえの苦しさ、せつなさはあるものの、キムはいつの日かクリスが戻って来ると信じている。そして、その希望こそが、キムにとって唯一の生きる理由でもあるのだ。


終盤、キムが息子と暮すベトナムに、クリスが妻を連れて訪れて以降は、観劇者にとってツラいシーンが続く。おそらくキムは報われないのだろうという予感と、その予感を裏切ることなく進むストーリーに、胸がしめつけられる。そして、驚愕のクライマックス——。


だれもキムを責められまい。息子を愛する気持ちと、妻のあるクリスを諦めきれない気持ち。その相容れない気持ちにケリをつけるために彼女が選んだ選択肢。いや、もちろん、彼女の行為は美談ではなく過ちなのだということは頭では理解している。ただ、戦争という過酷な背景に目を向けたとき、理屈だけで彼女を糾弾していいものだろうか、とも思う。と同時に、糾弾されるべきは、ありったけの不条理と悲劇を生み出す戦争そのものに対してだということも。


情緒あふれるメロディと詞。そして、楽曲の美しさは「ミス・サイゴン」の大きな魅力だ。その豊かな旋律は観劇者の隅々にまで染み入り、心の琴線に触れる。また、全編に渡って、小さなセリフにまで音符をつける「オペラスタイル」を採用した本作では、言葉以上に、メロディが微小な気持ちを伝える。役者の実力が試される演目とも言えるだろう。


なお、実物大のヘリコプターを用意した有名な第2幕の回想シーンは、離ればなれになったキムとクリスの悲しみを知るうえで極めて効果的な役割を果たしており、また、圧倒的なスケールを誇る舞台美術も圧巻だ。序盤でディテールを積み上げたキムとクリスの恋愛描写に加え、この臨場感あふれるシーンを盛り込んだことが、のちの展開に大きく活きてくる。


今回のロングラン公演では、主要な登場人物にそれぞれ4人の役者をつける「クアトロキャスト」を採用。見る日によって違ったアンサンブルが楽しめるのはもちろん、組み合わせによって、その都度新たな魅力を発見できる、という作りになっている。この日は、知念里奈の期待以上の演技力でキムを演じたほか、クリスに扮した照井裕隆も、美声をあやつりつつ、実直ゆえに悩み多きアメリカ青年を好演。キスシーンがやたら多いのだが……、そのマッチメイクを含めて、なかなかのお似合いのカップルだったように思う。


そして、本作「ミス・サイゴン」の精神的支柱とも言うべきエンジニアを演じた橋本さとしは、関西的なノリと軽快なフットワークで舞台上に華を与え、調子よくも憎めない役どころを完璧に務め上げた。重苦しい悲恋の物語にもかかわらず、本作がエンターテインメントとして優れた完成度に到達しているのは、エンジニアの存在があればこそ、である


難解なシーンもなく、親切なほど丁寧な演出と豊富なアドリブで、戦時の悲恋をエモーショナルに描いた名作ミュージカル「ミス・サイゴン」。人間の愛の本質と運命の不条理に迫った会心作である。公演日は残り少ないが(10月23日まで)、どの年代にも楽しめるミュージカルとしてオススメしたい。

トラックバック

トラックバックURL:
http://yamaguchi-takuro.com/mt/mt-tb.cgi/436

山口拓朗プロフィール
山口拓朗プロフィール
お問合わせ


ブログ書いてます
Twitterやってます
「映画ジャッジ!」に寄稿中
「映画ジャッジ!」
Yahoo!カテゴリ 「映画評論家」
yahoo.logo.gif
映画批評
■映画批評(鑑賞順)
■映画批評・インデックス
■銀幕をさまよう名言集!
執筆アーカイブ
■執筆履歴
その他
■日常雑記
■舞台
拙書情報
■イチローともジャイアンとも 初対面ですぐに仲良くなれる本

■男の座右の銘
リンク
リンク
サイト情報
相互リンクについて
管理者ページ
SPECIAL(妻のブログ)
momo-blog.jpg





RSS FEEDRSS FEED  記事一覧記事一覧  TOPPAGEサイトの最初のページへ  TOPページの先頭へ 
Copyright(C)2002-2008感動フリーライター・山口拓朗 映画批評 Allrights reserved.